宮城県亘理町でクリエイティブディレクターとして地域おこし協力隊に参加し、実施中のアートプロジェクトでの作品。
「これなんかいいねえ!」
ゆっくり自転車で通り過ぎようとしたおじさんがブレーキをかけて言った。
その作品は偶然にも一番好きな作品だった。いろいろな場所で作品を作っていると、時々こういう瞬間に出会うことがある。
全く異なる職業、年齢、性別であっても、同じものになぜか惹かれることが多いのだ。
「なんでかわからないけど、いいですよねぇ」 「うん美術とか全然わかんないけど、これなんかいいと思うねぇ。がんばってね〜」
その垣根のない「普遍的な良さ」とは一体なんだろうか?
普遍的に愛されるものとして思いつくのは、ビートルズをはじめとするポップシンガーだった。 どの時代においても、音楽についての知識がなくても、ずっと愛され続ける作品がいくつもある。我々もそんな作品をいつか作ってみたい。 きっとポップが目指すのは、「これいいよねぇ」といった思想や想いを共有出来る仲間とのコミュニティを、より強固で揺るぎなく純度の高いものにすることだけではない。
ここから「ポップ」のことを「普遍的な美」と同義にして考えてみようと思う。「いいよね」と分かり合えるコミュニティの外側に 語りかけること、それが「ポップ」なのではないかと思うようになった。言葉の通じない相手にどんなふうに語りかけるのか。わたしたちの声は遠くには届かない。なら、どんな言葉や表現が必要なのか。ポップはただそれを探り続ける。そのポップの役割は、果てしなく広がる無知と無関心の地平に語りかけることだ。
私は音楽も詳しくないし、関心がある方とも言えない。でもビートルズは好きだ。
そんな風にして、まったく言葉の通じない他者に語りかけようとする意志が作品から見える。
そのためにもっとも大切なことは、その無知と無関心の荒れ地には、必ず知性と聡明さと良心が潜んでいることを誰よりも信じることなのだと感じる。
それでは何を作るか?ということの前に、一度まっさらに戻して、そもそもわたしたちは何を美しいと感じているのか、鑑賞者のみなさんと一緒に考えてみたくなった。
ここに展示してある9つの石は、ほとんど亘理に移住してから県内で採集した石だ。
たくさん拾った石のうち、もうまるでひとつの作品のようだとすら思えるほど「なぜかわからないけどグッとくる」と感じた石を 展示している。 その石の良さを分かりたくて色鉛筆で描画した作品も展示している。
ここ悠里館にいらしたみなさんが、どの石に「なぜかわからないけれどグッとくる」のか、
アンケートを介して対話をしてみたい。
石は、地殻変動と造山運動によって途方も無い時間をかけて我々の手元に届く。
先日起こった怖い地震も、いつかどこかのだれかに新たな石を出会わせるだろう。
怖くても、その石の美しさに感動できることは、人間としてすばらしいことだと私たちは思うのだ。
2023年8月 久保田 沙耶
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