本展「ほどく unweaving」は久保田沙耶と魚住英司による展覧会です。2人は2021年度より宮城県亘理町に居を構え、地域おこし協力隊として、アートを通して地域を見つめてきました。(魚住の隊員としての活動は2023年度より)

 活動拠点となる亘理町は東日本大震災の被災地です。災害についてより理解を深めるため、かつて魚住が被災した阪神淡路大震災の被災地である兵庫県神戸市と亘理町を往復しながらリサーチと作品制作を繰り返すことで、「震災」と「郷土」について考察を深めてきました。土地の成り立ちや震災からの経過時間も異なる2つの土地でのリサーチは、「地域」あるいは「地域おこし」の概念そのものと向き合うことになりました。本展制作において、地域おこしに求められがちな「新たな価値」は、どこか違う場所からやってくるのではなく、もうすでにその場所にあるのだと思い至り、そこから久保田と魚住は自身を羅針盤として土地を味わい、ささやかでも琴線にふれた土地の一瞬の喜びを出来るだけ形にすることに努めました。それらの行為は、制作とも、暮らしとも、仕事とも言い難い、土地にねむる宝石箱をひとつひとつ「ほどく」ような仕草でした。「わかる」の語源に「分ける」があると言いますが、土地を自身の身体を使って理解する姿勢は「分かる」のではなく、状態をそのまま受け入れ「ほどく」ように理解する営みでした。

 これらの作品は「復興」「防災」「減災」という言葉から一見離れているように感じるかもしれません。しかし、ありとあらゆる出来事を人間的に受け止めるための、小さな美しい種に違いありません。鑑賞者のみなさんの心にも、土地の持つ力を感じ取っていただければ幸いです。